第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース4 ─

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 僕は独りごちるように言うと、 「神と悪魔は双子の兄弟であった」  突然として声が湧いた。  その声のした方を見やると、風騒ぐ木の下闇に男が佇んでいた。 「何故ならば、もし神に暗黒面を表す双子がいなければ、神はこの世に蔓延る悪の責任をとらねばならないからだ──中世の異端者が残した言葉です」  重く鋼のような声音だが、ひどく心をなぞる響きがあった。 「あなたは……?」  僕は問うた。  その男は外人だったが、ひどく異相であった。  左右の虹彩が、水晶のごとき碧色と金色のごとき琥珀色をしたオッドアイだ。  額が低く繋がった眉の下に、付け根が太い大きな鼻がある。  色素が失せた白髪で、それに負けないくらいに青白い肌をしていた。  ワールデンブルグ症候群という先天性の遺伝病で、そのような「妖精の顔」に生まれる者がいると聞いたことがある。 「失礼しました。つい話が聞こえたもので」  男が深くこうべを垂れて謝ると、 「神父だな」  ナギサが一言した。 「ほほう。なぜわかりましたか?」 「振り香炉の残り香で神父と知れる」  たしかに男は、立襟で足首まで届く長いワンピース状の黒い服で、それは神父が着るキャソックという司祭服であった。胸には聖ペトロの逆十字が煌めいている。 「双子の話で、創世記の逸話があります」  神父が木の下闇から抜けて、僕たちに近づいてくる。 「アブラハムの孫に、エサウとヤコブという双子がいました。 エサウが兄で長子の財産相続の権利がありましたが、弟のヤコブがわずかな食べ物で権利を奪いました。 それが原因でヤコブは追放されましたが、荒野で闇の天使と闘って勝ちイスラエルの称号を得たそうです」
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