第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース1 ─

2/15
前へ
/184ページ
次へ
 そのコルチャック先生をモデルにしたと思われる、家主 転茶九(やぬし ころちゃく)の本『子どものための豊かな国』が家に置いてあった。  それはおそらく、コルチャック先生が書いた『マチウシ一世』をモデルにした本であると母が考察する。  そして、もう一冊の本が見つかった。  それはナギサが持っていた半分に破れた本『こころをさがして』、その破れた残り半分であった。  僕は3日の休みが明けて、久しぶりに相談所に出所した。 「おはようございます。お久しぶりです」  頭を下げて挨拶すると、 「猫屋田、久しぶりの直角お辞儀だな」  美蝶子さんが書類の山から頭をもたげて言った。  どうやら自分が休んでいる間に溜まった仕事を、必死でこなしていたようである。  これでは頭が上がらない。 「申し訳ありませんでした!」  もう一度頭を下げる。 「いいから、仔猫ちゃんは面を上げな。今回の事件は残念だったけど、猫屋田は必死に頑張ったじゃないか」 「美蝶子さんにも迷惑を掛けました」 「今回ばかりは、あたしも色々と勉強になったよ。目ウロコさ」  美蝶子さんが珍しく謙虚な表情で言った。  さすがにナギサの死送りの術式を目の当たりにして、固定概念を変えざるを得ないと悟ったのだろう。 「そうなんですよイサナ君。美蝶子先輩、珍しく虚心坦懐になっていたんですよ。 でも猫屋田が来たらシメるって、残業しながら歯を軋らせてボヤいていたです」  雉子さんが朝からお菓子を食べながら言った。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加