第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース1 ─

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 犬頭先生がペコリと頭を下げて、笠所長のところに向かった。 「へえ~、あれが猫屋田の恩人か?」  と美蝶子さんが早速絡んできたので、 「はい。それに3年前の母子無理心中事件で責任を取らされて、この町を去ったのにまた戻って来てくれたんですよ」  僕は歓びを噛みしめるように答えた。 「それはそうと猫屋田、これから面接相談があるが同席できるか?」 「はい。もちろんです」 「相談者は黒葛原 美紀(つづらはら みき)さんで、長女マナミちゃんが知的障害があるらしい。 それで相談したいと朝一で来るはずだよ」  美蝶子さんが説明していると、 「美蝶子先輩、面接相談の方が見えられましたです」  と雉子さんが声を掛けた。  ちょうど良いタイミングである。僕と美蝶子さんは面接室に向かった。  子どもに関する相談がある場合、事前に電話では予約をするだけで、実際の相談は相談所に来てもらい面接室で行うのである。  フロアに出るとそこに美紀さんらしい30半ばの女性と、小学校高学年らしい男の子それに小学校低学年に見える女の子がいた。  その小さな女の子がマナミちゃんなのだろう。頭1つ大きな男の子の手を握り、少し怯えた眼でこちらを見ている。  僕は口を開こうとすると、服部女史が巨体を揺らしながら駆けてきた。 「ちょっと猫屋田君、すまないけれど君は面接を遠慮してほしいのよ」  女史がおっとり刀で言うと、 「この子が必要とされていないからですか?」  と美紀さんが怖い眼で訊ねた。
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