第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース1 ─

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「ぼくもそうです」  2人して笑い合った。 「こうしていると、小学校で廊下に出されたのを思い出すよ」 「イサナさんも立たされたことがあるのですか? ぼくも同級生とケンカして、教室の後ろに立たされました」 「へえ~、ケンカか。僕の場合は先生に反抗したからだよ」 「先生に反抗って……イサナさんは優しそうに見えるのに」 「掃除の時間に僕のいた班でね、クラスで飼っていたウサギの具合が悪いから保健室に連れて行ったんだよ、掃除をさぼってね。 それが次の日に先生にバレて、班の全員が廊下に正座させられたのさ」 「廊下に正座はキツいですね」 「だろ? 誰が掃除をサボろうと最初に言ったのか名乗り出なさいと先生が言うから、僕たちは意地になって口をつぐみ正座していたんだよ。 結局は誰も言わなくて授業時間中ずっと正座していたから、すっごく足が痛かったのを憶えているな」 「それ、今では体罰で問題になりますよ」  ケンイチ君が苦笑して言った。  学校教育法第11条で、児童に肉体的苦痛を与えるようなものを体罰と見做す規定があるのだ。  それに児童に授業を受けさせないという処置は、義務教育において懲戒の方法としては許されないだろう。 「でもね、授業を受けるよりも友達と正座して我慢比べをしていたときの方が、ずっと有意義で友情を感じたな。今となっては良い思い出だよ」 「イサナさん、見た目と違って意地っ張りなんですね」 「意地っ張りと言うか、不器用なんだよね」  2人で相談室に聞こえないように忍び笑いをしていると、その扉が開いて美智子さんと美紀さんが出てきた。
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