第1章 死送る者のレゾンデートル ─ ケース1 ─

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「……ネグレクトですね」  ネグレクトとは、養育放棄や保護の怠慢のことだ。  児童虐待の定義を要約すれば、それぞれ4つの類型に分類される。  身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待であり、ネグレクトは身体的虐待に次いで多い。  それは次のような特徴が挙げられる。  健康を損なうほど食事を与えない。  極度に劣悪な環境のなかで生活する。  子どもの意志に反して家に閉じこめる。  子どもを家に放置したまま度々外出する。  子どもが同居人に虐待を受けているのにもかかわらず放置する。 いずれもネグレクト状態が深刻になると、ニュースで報道されるように餓死してしまうケースもある。  車の後部座席で人知れずミイラ化していた子ども。  ケージに押しこめられていたために筋肉が衰え、足首の関節が伸びきった尖足(せんそく)になった子ども。  家庭内監禁状態であったため社会常識が身についておらず、ハンバーグすら知らなかった子ども。  父親が飼い猫の方が可愛いと放置され、食事を与えられずにおむつや紙を口にしたが餓死した子ども。  母親がホストクラブで遊びたくて育児が面倒になったと遺棄され、部屋に残されて尿を飲み便を食べていたが餓死した子ども。  ネグレクトの虐待は命に直結する事態に陥りかねない、最も危険な虐待の一種なのだ。 「子どもは生死の境を彷徨って、発見があと数時間でも遅れていたら死亡していたらしいわ」 「助かって良かったです本当に」 「それがね……子どもの命が危ないと、若い女から通報を受けて助かったのよ。 その通報者の行方が知れないのだけれど、君は若い女に心当たりがないかしら?」
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