第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース1 ─

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「それで世間の眼が障害者に集まると、得てして排他的な思想がはびこるもんさ。 障害という言葉ひとつ取っても、“障がい”と害をひらがなで書くか、“障碍”と石偏の碍を当てるかで意見が分かれているよ。内閣府も決めかねているけれど、それ自体が差別だよね。 障害とは“身体的に障害を持つ者”ではなく、“世間との関わりで障害に直面する者”だと思うよ」 「まったく、いたたまれない気持ちになります」 「障害は個性のひとつと受け入れろ、と綺麗事言えないからね。実際には差別されるし冷たい眼で見られるのが常さ。 それを母親は我慢して世間の迷惑にならないように謝り、障害で生まれたのは自分のせいだと被虐的になる。 脳の障害なのに、あのとき飲んだ薬がいけなかったのか、あのときブツけたのがいけなかったのか、と色々悩んでしまうみたいだね」 「でも先輩、わたしの知っている障害のある家庭は、みんな笑顔で幸せそうですよ。 障害をもって生まれてきた子どもは、周りの人を輝かせるという立派な社会貢献をしてます」  雉子さんが横合いから口をはさんだ。 「まったくその通りだよ。問題なのは、お母さんが妹さんを育てるのにストレスを感じていることさ。 言っても聞かないから叩くと、それが徐々にエスカレートして虐待に繋がる場合があるからね」 「そうならないように、僕が気をつけて見守りますから!」  僕は意を決して宣言すると、 「それはお門違いだな」  いきなり声が降ってきた。  振り向いて見ると、そこに銀縁眼鏡で厳つい表情をした男の人が立っている。 「自分は厚生労働省、雇用均等・児童家庭局から来た、監査官の冬馬(とうま)だ。 今回の問題を可及的速やかに沈静化するために派遣された」  冬馬監査官が硬い声で言った。
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