第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース1 ─

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「今回の問題って……?」 「君が事案を担当した赤海アエカの虐待餓死事件。それに白姫マサルの虐待死事件、さらに児童養護施設での大宮ミヤビのパニック障害事件にも関与していると調査で判明している」  細く眼光鋭い視線に射貫かれて、身も心も縮み上がってしまった。 「児童福祉法により、子どもを親権者の同意なく強制的に引き離し拘禁する権限を持った児相という特殊な機関。 その所管は名目では厚労省の管轄となっているが、その業務に関して監督責任はあるが、業務の指示や注意勧告をする実態はなく、業務自体も特殊なため、言うなれば孤立した部署として運用されているのが実態である」  ツカツカと革靴で歩み寄り、凍った視線で睥睨する。 「今回の諸問題も、児相が何らコントロールされていないことが一因にある。 しかるに、世間から児相が福祉警察と揶揄されるのだ。これは法治国家として、由々しき問題と言わざるを得ない」 「ど、どうするのですか?」  声を震わせながら訊ねると、 「わが国は東京オリンピック・パラリンピック大会に向けて、安全な国という主張をしている。 そういう政治的見地から見ても、この諸問題の根底にある原因を排除せねばならない」 冬馬監査官が鋼のような声で断言する。 「諸問題の原因と言われますが」美蝶子さんが割りこむ。「その背景には共通して養護問題が潜んでいます。児童虐待を根絶するには遠回りであっても、貧因対策や格差社会に向けた積極的な取り組みが肝要だと思われます」 「ご託を並べているが、君たちは公務員なのだぞ。いわば国家の歯車なのだ。 それが行政干渉を口にするとは、言論の自由があるとはいえ認容できないぞ」
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