第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース1 ─

12/15
前へ
/184ページ
次へ
「冬馬監査官の言い分は百理あります。とはいえ最前線で働く兵隊は、人生を懸け命を懸けて子どもと向き合っています。 この猫屋田は未熟とはいえ、人一倍それが強い者です」 「それを監査するために自分が派遣されたのだ。猫屋田イサナ、貴様が児童福祉司の資格があるか精査し、しかる後に処遇を決定する。 それまでは福祉業務に関わること、罷り成らぬと覚えておけ」  冬馬監査官がそう言い捨てると、きびすを返して歩み去った。 「あのキャリア、激ムカつく~」  美蝶子さんがベキッとペンを折り、 「官僚って感じで、超許せませんです~」  雉子さんがキリキリと歯噛みした。 「ま、まあまあ、落ちついてください」  僕はやんわりとなだめると、 「これが落ちついていられるかっ!!」  魔女姉妹が噛みつくように怒った。  そんな事情で、冬馬監査官の取り調べを受けることになった。  もちろんナギサのことは言えない。言っても信じてもらえないからだ。  その尋問まがいの質疑応答に辟易して、息抜きのために公園で昼食をとることにした。 「麦子さん、こんにちは。冷やしたフルーツのデニッシュと、生ハムと夏トマトのブリオッシュサンドください」 「あら、イサナちゃん。毎度ありがとね」  いつものように、麦子さんが夏に負けない爽やかな笑顔を見せてくれる。 「ねえ、麦子さん……あの夢は叶えられそうですか?」  僕はおずおずと問いかけた。  麦子さんは移動式パン屋で貯めた資金で、メニューがパンだけのファミレスを開店するのが夢なのだ。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加