第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース2 ─

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第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース2 ─

「なぎさ、なぎさ」  マナミちゃんがオウム返しをしながらナギサに近寄る。  どうやらナギサが描いている絵に興味があるようだ。 「絵が好きなのか?」  ナギサが訊ねると、 「マナミは絵本が好きなんです」  とケンイチ君が顔を赤くしながら答えた。 「なぎさ、なぎさ」  マナミちゃんがしきりに絵を覗いている。 「この絵が気に入ったのか?」 「なぎさ、なぎさ」 「この絵が気に入ったならやろう。マナミはこの絵がほしいか?」 「なぎさ、ほしい」 「ならマナミ、この絵をやろう」 「このえ、なぎさ、やろう」  ナギサがいとも容易く言ったので、マナミちゃんが大きな眼を瞬かせて喜んだ。 「す、すみません、ナギサさん。ほらマナミ、お礼のありがとうは?」  ケンイチ君が恐縮しながら急かすと、 「ありがとー」  マナミちゃんが満面の笑みでお礼を言った。  その手にナギサの絵を持って、太陽に透かすように眺めている。 「ナギサ、いいのかい?」  僕はさり気なく訊いた。あれはユキナちゃんに見せると約束をしていた絵だからだ。 「また描けばいい。私が描いた絵で喜んでくれるのが嬉しい」  ナギサが眼を細めながらマナミちゃんを見る。  その横顔を微笑ましく眺めていると、 「なぎさ、なぎさ」  マナミちゃんが笑いながらナギサの手を握った。 「こらマナミ、ダメじゃないか」  ケンイチ君が軽く叱るが、 「構わない。マナミ、一緒に遊ぶか」  ナギサがマナミちゃんの手を引いて砂場に行った。
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