第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース2 ─

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 それをケンイチ君が近くで見守っている。  晴れやかな空の下で、穏やかな時が流れゆく。 「あの……その……すみません」  戸惑いがちの声がしたので振り向くと、そこに美紀さんが困惑した面持ちで立っていた。  この前の暴言があるので声をかけづらかったのであろう。  おどおどとした表情で近づいてきた。 「あっ、その、こんにちは」  僕も緊張して口ごもってしまう。 「こ、この前は失礼なことを言って、謝らずに帰ってしまい申し訳ありませんでした」 「と、とんでもありませんよ。こちらこそ不快な思いをさせてしまって申し訳ありません」  型どおりの挨拶が終わると、2人の間に沈黙が流れた。  美紀さんがうつむき加減で、砂場で遊ぶナギサとマナミちゃんに視線を移す。 「ケンイチ君がお母さんを休ませたいからと、マナミちゃんを連れだしたと聞きました」 「ケンチにはマナミの世話を任せっきりなんです。特別児童扶養手当といった直接的な金銭給付はありますが、それだけで生活できないので母親は日中働きに出ています。 障害者の家庭は生活保護並みに手当てをもらえると考える人がいますが、逆に普通の家庭がどんなに羨ましいか……」 「色々と気苦労があるのですね」 「マナミは……将来健常者みたいに暮らすことは難しいと言われました。 改善することはあるが、このまま一生完治することはないだろうとも」  マナミちゃんの知的障害のことは、美蝶子さんから聞いた。  障害の程度はA2で、中度の知的障害であると。  言語による意思表示はいくらかできるが、秩序だった集団生活には適さない。  おそらくは成人になっても、3歳児程度の知能レベルのままだろうと説明された。 
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