第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース2 ─

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 冬馬監査官にこってりと絞られ、ほとほと嫌気がさした頃に終業時間となる。  店で待っていたナギサを連れて、ユキナちゃんの許に向かった。  養護施設の前まで来ると、幾人かの人影が玄関に集まっているのが見える。 「あっ、ナギサお姉ちゃん、イサナお兄ちゃん!」  ユキナちゃんが手を振った。  その側に背を向けて立っているのは、 「犬頭先生じゃないですかッ」  僕が呼ぶと犬頭先生がおもむろに振り向いた。  どうやらユキナちゃんの保育士と話をしていたようである。 「おや、イサナ君とそれに……」  犬頭先生がナギサを見て言葉を詰まらせた。 「先生が前に話していた、榊花に養子縁組に出したナギサですよ」 「ああ、あのお嬢さんですか。2人して一緒にいると、あの日のことを思い出しますね」 「えっ、あの日のこととは何ですか?」 「君たち2人は同じ日に、この養護施設を出て里親の許に行ったのですよ」  犬頭先生が懐かしそうに眼を細めながら答えた。  そんなこと全然憶えていなかった。  僕はナギサを見返るが、彼女も記憶がないのか黙したままである。 「ユキナ君が養子縁組で出る日に、その施設を巣立った2人に会えるなんて巡り合わせですかね」 「ユキナちゃんが施設を出るのですかッ!?」  突然の話に驚きの声をあげると、 「うん。犬頭先生が紹介してくれたんだよ!」  ユキナちゃんが溌剌とした声で答えた。よほど嬉しいのだろう。 「良かったな、ユキナ。絵はまだ完成していないが、必ず描いて届ける」  ナギサが祝福の言葉を贈りながら、ひざを折って抱きしめた。
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