第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース2 ─

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「うん、必ずだよ。それでね、あのねあのね──」  ユキナちゃんがそう言いながら、何やらポケットをまさぐっている。 「あった。ここが今度行くお家だよ」  ハイと差しだしたのは、ネコのマークのある名刺だった。  その裏に拙い文字で住所が記してある。  その上にはカラフルな色使いのクレヨンで、“アベックできてね”と書いてあった。 「保育士の先生に預けようとしていたけど、お兄ちゃんに渡せて良かった」 「ユキナちゃん、ありがとう」  少し涙ぐむユキナちゃんの手を握る。その手は小さいけれど熱かった。  無限の可能性を秘めた子どもの手である。  児童福祉司をやっていて良かったと、胸に沁みた。 「イサナ君、その優しさを磨きなさい」  犬頭先生が深い声で言った。  大きな影に寄り添う小さな影が去っていくのを、ナギサと並んで見ていた。 「幸福になってほしいね」 「ああ。そう願わずにはいられない」  さすがのナギサも感慨深げである。いつまでも遠くを眺めている。 「あの、すみません」  と遠慮気味な声がした。  声のした方を見ると、そこにユキナちゃんの保育士だった女の人がいた。  ミヤビちゃんの件でも世話になった人である。 「あの、わたしヒナタです。名前まだ言ってませんでしたね」  ヒナタさんが名乗るが、その声はかすかに怖じけていた。  きっとナギサを目の前にして気後れしているのであろう。 「ユキナちゃん、里親が見つかって良かったですね」 「はい……。それで実はお話ししたいことがあるのですが……」  ヒナタさんが人目を憚るように声をひそませて言った。
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