第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース2 ─

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「自殺は暴力からの解放ではない。それは自分を殺すことだからだ。 暴力を振るう者と同じ行為を、自分自身の魂にするのと一緒だ」 「そうですね……わたしはまだ良かったと思います。児相に保護されて親から離されましたから。 それでも養護施設で暮らしはすれど、決して恵まれた環境ではありませんでした」  児童養護施設は、国と自治体が半額ずつ負担する措置費で運営されている。  学用品や医療費、食費のほか職員の給料も措置費で賄われているのだ。  それでも色々と弊害はある。  予算に限りがあり子どもの好きな食事もままならず、高学年になっても部屋は相部屋である。  お小遣いも少額もらえるが、それで友達と飲み食いができないので孤立してしまう。  施設を出た子どものなかには、ファーストフードの注文の仕方を知らなかった者もいるという。  子ども時代を施設で過ごした者が訴えることは、社会で必要な基本的なことを教えてもらえないことだと言うのだ。 「施設は18歳で退所しないといけませんが、仕事や住む場所を探しても保証人がいないので見つかりません。 そんなときに所長の長田さんが手を差し伸べてくれて、住む場所はおろか、この施設で働けるよう手配してくれました。 だからわたし保育士の資格はまだ持っていなくて、単なるアルバイトなんですよ」 「そうなんだね。随分としっかりしているから、保育士のベテランかと思ったよ。叱られたときにはビビったしね」 「あ、あのときはごめんなさい。すみません、話が横道に逸れました。つい普通の親の許に行った人を羨んでしまって……」 「血の繋がらぬ親に預けられても不幸な場合はある」  ナギサが急に口を開いて言った。
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