第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース2 ─

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 その表情は冴え冴えとして冷たい。  ヒナタさんがハッとした顔をして、自分だけ不幸なことを口にしていると後悔するような表情になった。  何だか気まずい空気が流れているので、それを中和させるために話を変える。 「養子縁組や里親制度は、まだ日本では広く普及していないからね。 児童相談所も里親委託ではなく施設委託を好むのは、里親に委託するのは手間暇が掛かるし、委託した後は措置終了まで里親宅を一軒一軒ずつ家庭訪問することになっているからだよ」 「それ、勉強して知りました。それに監護下にある子どもを施設入所させる方が、個別に養子縁組を進めるよりも手間も時間も掛からないためだとも」  他に里親養護に対する社会的認識の薄さもあるが、里親認定のきわめて緩い制度も弊害がある。  ある年齢以上の人が結婚していて前科がなければ認定されるため、申請があればよほどの事情がない限り里親認定は拒めない。  子どもを引き取った里親が、後で障害のあることに気づいて施設に戻す者もいるという。 「だから犬頭先生は偉いんだ。もうベテランで所長を任されてもいい立場なのに、それを一顧だにせず今も養子縁組や里親委託に心血を注いでいるんだよ」 「その養子縁組と里親のことで話したいことがあるんです。こんなこと誰にも信じてもらえないと思って言えませんでした。 けれどミヤビちゃんの一件を見てから、2人なら信じてもらえると思って」 「それで相談したいと声を掛けたんだね」  僕は微笑みながら言うと、ヒナタさんがコクリとうなずいた。
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