第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース2 ─

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 このヒナタさんは、ミヤビちゃんに取り憑いていた正体不明の霊を死送りの術式で昇天させた一部始終を見ていた。  それで既成概念が覆されたのであろう。 「先日ですが、うちの施設から養子縁組に行った子どもにバッタリ会ったんです。 わたしが担当していた子だったので思わず声を掛けたのですが、その言葉を無視して行ってしまったんです」 「その子は恥ずかしかったのかな?」 「わたしも施設の出だと恥ずかしいのかなと思ったのですが、それでもちょっと傷ついたのでその子を追いかけたんです。 でもその子は“あなたなんて知らない。施設なんて知らない”と言い張るんです。その表情は嘘を言っている風には見せませんでした。 ホントに他人のような表情で、わたし思わずゾッとしたのです」 「養子縁組で施設を出た子どもが他人のようになっていたと……?」 「はい……あれは同じ顔をした赤の他人でした。そんなことってあるのでしょうか?」  ヒナタさんが問い掛けるので、僕はナギサと顔を見合わせる。 「その子どもだと思っていたのが、実は他人だったということだな」 「それってミヤビちゃんのときと似ているね。もしかしたら何か関係があるのかな?」  僕は独りごちるように疑問を口にすると、 「その謎を解きたいか?」  突然に女の人の声が湧いた。 「えっ……!?」  思わず振り向くと、そこにポニーテールの髪に大きな眼鏡をかけた小さな女の人が佇んでいた。 「だ、誰ですか?」 「あたしはアオネ、丹(あかい)アオネだよ」  腰に手を当てながら傍若無人な声で名乗った。
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