第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース2 ─

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 陽が差す店内はふくよかな微香が漂い、日常から隔てられた霊妙な情調を感じる。  その神秘的な空間が支配する店内の中央に座し、4人がお互いに顔を見合わせた。  心ならずもゴクリと生唾を飲む。否が応にも緊張感が高まる。 「さて、集まってもらったのは他でもない。ここに座る猫屋田イサナと榊花ナギサの両名が関わった、児童養護施設で起こった騒動とそれに付随する謎を考察するためである」  まずアオネさんが口上を切った。 「それはおそらく、3年前に起こった母子無理心中事件に端を発する」 「それは大宮家の母親が、すでに亡くなっているマサオキ君を抱えて8階から飛び降りた事件ですね」  僕は口を挟むと、 「私はそのマサオキの霊を死送った」  ナギサが付け加えて言った。 「だがマサオキの母親は、なぜか子どもを抱えて投身自殺を図った。幼い妹のミヤビを残してね。これが謎の1つ目だね」  アオネさんが言葉を切って指を1本立てる。 「その3年後、施設に暮らす妹のミヤビを霊が襲った」 「それをナギサが術式で死送ったけれど、その霊の正体は判明しませんでした」 「その霊が何者なのか。これが謎の2つ目だ」  アオネさんがまた指を1本立てる。 「その施設で働く保育士の証言で、養子縁組に出た子どもがまったく別の人格に変貌していたとの証言を得る。これが謎の3つ目さ」  アオネさんがまた指を1本立てると、今まで黙っていた八分儀さんが声を発する。 「う~ん、興味深いね。今の話を聞いていると、およそ脈絡のない無秩序な事象を並べたにすぎない感じだね」 「僕もそう思います」
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