第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース2 ─

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 図らずも賛同の意を表すと、 「あたしも最初はそう思った。だが、捜査に行き詰まったら現場に戻れさ。 事の発端である3年前の母子無理心中事件をもう一度掘り下げて調べたら、今まで見つからなかった謎を解くピースを発見したよ」  中指でクイッと眼鏡を押し上げると、アオネさんがニアリと笑った。 「何だ、そのピースとやらは?」  ナギサが珍しく好奇心を覗かせて訊くと、 「まあ、そうがっつくな。お楽しみはこれからさ」  アオネさんが指を振りながら口を鳴らした。 「焦らすな、早く話せ」 「ナギサ、そう焦りなさんな。“焦りは過ちを増し、後悔は新しい後悔をつくる”byゲーテ」  アオネさんが「ふふ~ん」と、まるで服部女史のような口調で諳んじる。  そう言われるとナギサではないが、いささか焦ってしまう。 「3年前の大宮家で惨劇が起こる1ヶ月前、ある政府高官の子息が病で没した。 その子の名は井坂アキオ。虐待死した大宮マサオキと同い年の男の子だったそうだ」 「そ、それが何か関係があるのですかッ?」  僕は前のめりに問い質すと、 「これは裏情報で仕入れたんだけど、その政府高官である井坂の父は、ある者の仲介で大宮マサオキを養子縁組する手筈になっていたのさ」  アオネさんが声をひそめて答えた。 「えっ……でもマサオキ君は死亡しましたよね?」 「それが大いなる誤りだったのさ。つまりマサオキ君が死んだのは手違いで、本来は井坂の家に養子縁組される密約があったんだよ」 「ますます意味がわからないぞ」  ナギサが尖った声で言った。 「では、こう言い直そう。ナギサがこの前に養護施設で死送ったのは、その井坂アキオの霊だったのさ」
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