第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース2 ─

15/15
前へ
/184ページ
次へ
「警察でもないのに指紋鑑定なんてできるのですか?」 「そういう調査会社があるのさ、企業向けのね。筆跡鑑定もそこでお願いしたよ。もちろんコネだからタダだけどね」 「ですが、同じ子どもなのに別の人格に変わるということがあるのでしょうか?」 「それを解明するためには、1つ目の謎に立ち返らないといけないのさ。そうすると別々の点を結ぶ線が見えてくる。 前に井坂の父はある者の仲介で養子縁組する手筈になっていたと言ったね」 「ええ、マサオキ君を養子縁組すると」 「そこで登場するある者を掘り下げて調べると、なかなかに興味深いことが判明したのさ」  アオネさんが言葉の余韻を残しながら、顔の前で指を組みうすく笑う。 「そのある者は3年前まで、インドのムンバイにいたのさ。それも違法の臓器売買グループに属していたんだよ」 「違法の臓器売買って、臓器移植のことですか。そんなもの本当にあるのですかッ!?」 「フィリピンやインドなどの第三世界では、臓器売買を生業にするブローカーが貧因層の者から腎臓を搾取しているのさ。 インドではパキスタン地震の影響で難民があぶれているから、金に困った者がその危険性も知らずにブローカーの餌食になっているんだよ」 「それはつまり……そのある者が臓器売買を日本に持ち込んだのでしょうか。それが別人格に変わることと関係があるのですか?」  釈然としない疑問を口にすると、今まで黙っていた八分儀さんが声をあげる。 「その答えは、臓器移植による記憶転移ですか」 「何ですか、その記憶転移とは?」 「臓器移植によって、臓器を取りだされたドナーの記憶が、それを移植された者に転移することさ。 ドナーの趣味嗜好や習慣、性癖、性格ばかりか記憶まで移るとされて、臓器の細胞に記憶が宿っているのではないかという仮説があるよ」  八分儀さんが静かな声で説明した。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加