第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

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第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

「あたしも最初は記憶転移現象かと思ったよ、少なからずの受容者レシエピエントが記憶転移の影響を受けているというからね。 でも今回の場合、その記憶転移には当てはまらないんだよ」 「すると、臓器移植の記録や痕跡がなかったということですね」 「如何にもその通りさ。臓器移植とは何の関係もなかったということさね」  アオネさんと八分儀さんが、あらかじめ則った台本を読むように言葉を交わした。  どうやら2人は、お互いに相手の知識を探り合っていたように思える。  それが証拠に、大事なことを勿体つけて先延ばしにしているように見えるのだ。 「そのある者とは、一体何者なのですか?」  僕は堪らず訊ねると、 「ふむ」と2人が低く呻いた。  やはり大事なことを保留していたようである。  お互いに顔を見合わせた2人だが、先にアオネさんが重々しく口を開く。 「そのある者とは、バチカン市国はローマ教皇庁にある秘密文書保管所に在籍した人物だったのさ」 「何ですか、その秘密文書保管所とは?」 「世界でも最古の図書館の1つとされ、バチカンに所蔵される大量の文章が保管される場所さ。 その数は文書が7万5千冊以上、書籍が110万冊以上とされ、棚の総延長は84キロにも及ぶ超ド級の図書館だよ。 所蔵されている資料のなかには、地動説を主張したガリレオ・ガリレイの裁判記録や、アドルフ・ヒトラーがバチカンと交わした手紙なども含まれているらしいよ」  アオネさんが陶酔したように顔を上気させるので、現実世界に戻すために咳払いをした。
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