40人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたがなぜここに……ッ!?」
僕は驚きのあまり身を固くしていると、
「青年よ、畏れることなかれ。我は敵にあらず。善悪の彼岸を超えた存在者である」
ペイルライダーが厳かな声で言った。
「ふんっ、臓器売買組織に荷担していた外道神父が何を言うか。あたしには正真の悪にしか思えないけどね」
アオネさんが嫌悪感をあらわに言葉を叩きつける。
「くくく……」
およそ無機質で乾いた声が断続して聞こえる。
それがペイルライダーの笑い声だと気づくのに、幾ばくかの時間が必要だった。
「何を持って善と悪を論ずるのか。それは矮小で偽りの既成概念でしかない」
「少なくても日本では、違法な臓器売買は悪だと相場が知れているのさ」
「善と悪の間には“無記”がある。無記とは、形而上学的に無用な問題には、判断をしないこと答えを出さないこと。
まさに善悪の彼岸にある、この混沌とした世界のことである」
「あんたが子どもたちにしたことが悪じゃないと言うのかい?」
「我は虐げられし子どもを救ったのだ。我こそは唯一の救済者である」
ペイルライダーが睥睨しながら断じると、八分儀さんが眼鏡を押し上げながら訊ねる。
「あなたは子どもを救うと言うが、どのような手段でそれを成しているのですか?」
「汝は日本の香霊師か? 我も同じ香師である。遙か古代から連綿と続く、香りを使って霊を降ろす香霊術の担い手である」
ペイルライダーが、ナギサや八分儀さんと同じ香霊術の使い手!?
その頭を震撼とさせる言葉に愕然としていると、八分儀さんがそれを予想していたかのように話を続ける。
「日本の八分儀宗家の他に、海外にも同様の香師が存在すると耳にしたことがあります。あなたの名前をナギサから聞いて、独自にその出自を調査していました」
最初のコメントを投稿しよう!