第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

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「あなたがなぜここに……ッ!?」  僕は驚きのあまり身を固くしていると、 「青年よ、畏れることなかれ。我は敵にあらず。善悪の彼岸を超えた存在者である」  ペイルライダーが厳かな声で言った。 「ふんっ、臓器売買組織に荷担していた外道神父が何を言うか。あたしには正真の悪にしか思えないけどね」  アオネさんが嫌悪感をあらわに言葉を叩きつける。 「くくく……」  およそ無機質で乾いた声が断続して聞こえる。  それがペイルライダーの笑い声だと気づくのに、幾ばくかの時間が必要だった。 「何を持って善と悪を論ずるのか。それは矮小で偽りの既成概念でしかない」 「少なくても日本では、違法な臓器売買は悪だと相場が知れているのさ」 「善と悪の間には“無記”がある。無記とは、形而上学的に無用な問題には、判断をしないこと答えを出さないこと。 まさに善悪の彼岸にある、この混沌とした世界のことである」 「あんたが子どもたちにしたことが悪じゃないと言うのかい?」 「我は虐げられし子どもを救ったのだ。我こそは唯一の救済者である」  ペイルライダーが睥睨しながら断じると、八分儀さんが眼鏡を押し上げながら訊ねる。 「あなたは子どもを救うと言うが、どのような手段でそれを成しているのですか?」 「汝は日本の香霊師か? 我も同じ香師である。遙か古代から連綿と続く、香りを使って霊を降ろす香霊術の担い手である」  ペイルライダーが、ナギサや八分儀さんと同じ香霊術の使い手!?  その頭を震撼とさせる言葉に愕然としていると、八分儀さんがそれを予想していたかのように話を続ける。 「日本の八分儀宗家の他に、海外にも同様の香師が存在すると耳にしたことがあります。あなたの名前をナギサから聞いて、独自にその出自を調査していました」
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