第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

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「我は死迎え者、魂器移植(こんきいしょく)術者である」 「魂器移植……何だそれは?」 「魂器移植とは言葉通り、不要な器に必要な魂を移植する御業」 「不要な器……必要な魂……」  ナギサが猜疑に満ちた表情でつぶやく。  その瞳が困惑の色に揺れていた。 「その意を解さぬか、死送る者よ。ならば教えよう。魂器移植術とは、この世で必要とされない虐げられし子の器に、望まれているがこの世を去った子の魂を移し植えることである」 「それは……虐待された子どもの身体を乗っ取り、別に死んだ子どもの魂を移植するということですかッ?」  高らかに唱えるペイルライダーに、僕は堪らずに問い質した。 「生き来(こ)しは彼処(かしこ)なり。そのために我は来たれり」 「乗っ取られた子どもの魂はどうなるのですかッ?」 「天使も見たことがなく、如何なる望みも叶えられず、如何なる名前でも呼ばれたことがない虐げられし子よ。 望まれぬ魂を天に還すのが神父の務め。祝福されし魂のみが、この世に留まれば良いのである」 「ま、まさか……3年前の母子無理心中は……?」 「あれは大宮マサオキの器に、井坂アキオの魂が適合しなかった失敗作である。それで暴走したマサオキの死体を、母親が道連れになって転落したに過ぎぬ。 そこで行き場を失ったアキオの魂を、死送る者が始末したのは好都合だったよ」 「ふ、ふざけるなッ! そんなことは許されないッ、児童福祉司として許さないぞッ!」  怒りに支配されて声を荒げると、ペイルライダーがまた低く笑う。 「くくく……。汝は誰ひとり救えぬではないか。汝が関わった赤海アケミの憐れな魂は、すでにこの世界には存在せぬよ」 「まさか……すでにアケミちゃんを手に掛けたのかッ!?」
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