第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

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「あれ程の美形である器を得て、クライアントはいたく喜んでいたよ」  せせら笑うペイルライダーに、ナギサが拳を握りながら叫ぶ。 「貴様、そんなことを言いに来たのか!?」 「それは誤解だと言ったではないか。我は汝を誘いに来たのだ。死送る者よ、その偽善にまみれた行いを止めて、我と共に祝福されし子の魂を救おうではないか」  キュッと口端を吊り上げて、ペイルライダーが悽愴な笑みを浮かべる。  それはまさしく悪魔の誘惑であった。 「断る! 断じて貴様などに手を貸しはしない」 「狭量なことだ。この世界の現実が眼に入らぬのだな。しかしながら死送る者よ、汝はすでに我の手中にあるのだよ」 「……どういう意味だ?」  ナギサが訝しむように訊くと、 「我が魂器移植に手を染めたのは、この日本で15年前に施術したのが始まりである。 その器の名は榊花ナギサ──それゆえに汝は生者であるにも関わらず、いつも魂は死の彼岸にあるのではないかね?」 「な、何だと……!?」  ナギサが激しい衝撃に打たれたように声を震わせた。  その白い相貌が透けるように蒼白になる。 「決してナギサは仲間にならないぞ」  凍りついたナギサに代わって対峙すると、 「死送る者よ、我の側につくこと考えておけ。我にはインドのように仲間が必要なのだ。それに、すでに1人は協力者がいるのだよ、汝らにとっての裏切り者がね」  含みのある言葉を残して、ペイルライダーが闇を巻くように店を去った。 「どういう意味だろう……?」  その言葉の余韻を頭のなかで転がしていると、アオネさんが重い口を切った。 「あいつの話を聞いて確信したよ、手引きする仲間の存在をね」 「そ、それは誰なんですか?」 「猫屋田と同じ児相に務める者……犬頭という児童福祉司だよ」
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