第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

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 アオネさんの言葉を聞いたが、その意味が呑みこめずに息が詰まった。  およそ信じられずに、何度も言葉を反芻させる。  それでも否定を振り切れず、力なく首を振った。 「……犬頭先生が……裏切り者?」  やっと喉を通った言葉だが、しかし掠れて消え入りそうだった。 「ああ。養子縁組の専門家として、子どもを亡くした政府高官や省庁関係者に里親斡旋していたのさ。 赤海アケミも犠牲者だとすると、これで11人目の魂器移植者になるね」 「そんな……あの優しい犬頭先生に限って……そんな馬鹿な……」  心が力ない否定の言葉を転がすが、頭が現実だと容赦なく責め苛む。  かくも世界は無慈悲なのだろうか。何もかも否定したい激しい衝動に駆られる。  なぜこの僕だけ、こんな残酷で理不尽な現実を突き付けられなければいけないのか。 「イサナ、しっかりしろ」  ナギサが短く叱咤する。  その凜として心震える声が、へたり込みそうになるのをかろうじて救った。  萎えた気力が戻ると同時に、最後に見た犬頭先生の姿を脳裡に再生させる。  その後ろ姿の傍らには、小さな少女が寄り添っていた。 「ナギサ……ユキナちゃんが……!?」 「ああ。ユキナが危ない」  ナギサの眼が怯えの色に染まっていた。  その様子を眺めていたアオネさんが訊ねる。 「どうやら12人目の犠牲者に心当たりがあるようだね?」 「ええ。犬頭先生が昨日連れだした子どもがいるんです」 「その子の居所はわかるかい?」 「待ってくださいッ」  僕は懐から1枚の名刺を取りだした。ユキナちゃんが住所を記したものである。
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