第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

9/15
前へ
/184ページ
次へ
 ナギサが言葉を強いても、 「……知りません。知らない人と話すなと父に言われているので」  ユキナちゃんが後退りながら答える。 「ユキナの弟のマサルを死送ったのを忘れたか?」 「し、知りません。変なこと言うと父を呼びますよ」 「絵本を完成させると約束したろ?」 「お、お父さーん!」  ナギサが腕を掴もうとするのを振り払い、ユキナちゃんが奥の扉に走った。  すると厚い扉が開いて、おもむろに中年の男性が出てくる。  それを見たアオネさんが顔を引き攣らせながら囁く。 「おい猫屋田、もう引き揚げるぞ」 「ど、どうしてですか?」 「あれは厚労省の幹部だ。これ以上の詮索はヤバいぞ」 「でもユキナちゃんがッ」 「もう遅い、あきらめろ。すでに魂器移植されて、元のユキナの魂は消されたよ」  アオネさんの言葉を聞いて、頭を打ち抜かれたように愕然とする。  僕たちはそれ以上詮索することなく、すごすごと退散せざるを得なかった。  アオネさんに車で送ってもらい、僕とナギサは公園で降りた。 「これ以上ペイルライダーに関わるな。ヤツは政府の中枢に魔手を伸ばしているから」  お前の身も危ないぞ、とアオネさんが忠告して走り去った。  眩暈にも似た混乱で、頭をふらつかせながら歩く。  ナギサは車内から沈黙したままだ。ただ、その表情には強い怒りが張り付いている。  ふと視線を移すと、公園の入口に少年が佇んでいた。  誰かを待ちわびている風情の少年は、近づいてみるとケンイチ君であった。 「ケンイチ君……こんなところでどうしたんだい?」 「……猫屋田さん、ぼく家出してきました」  ケンイチ君が吐きだすように言った。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加