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ナギサが言葉を強いても、
「……知りません。知らない人と話すなと父に言われているので」
ユキナちゃんが後退りながら答える。
「ユキナの弟のマサルを死送ったのを忘れたか?」
「し、知りません。変なこと言うと父を呼びますよ」
「絵本を完成させると約束したろ?」
「お、お父さーん!」
ナギサが腕を掴もうとするのを振り払い、ユキナちゃんが奥の扉に走った。
すると厚い扉が開いて、おもむろに中年の男性が出てくる。
それを見たアオネさんが顔を引き攣らせながら囁く。
「おい猫屋田、もう引き揚げるぞ」
「ど、どうしてですか?」
「あれは厚労省の幹部だ。これ以上の詮索はヤバいぞ」
「でもユキナちゃんがッ」
「もう遅い、あきらめろ。すでに魂器移植されて、元のユキナの魂は消されたよ」
アオネさんの言葉を聞いて、頭を打ち抜かれたように愕然とする。
僕たちはそれ以上詮索することなく、すごすごと退散せざるを得なかった。
アオネさんに車で送ってもらい、僕とナギサは公園で降りた。
「これ以上ペイルライダーに関わるな。ヤツは政府の中枢に魔手を伸ばしているから」
お前の身も危ないぞ、とアオネさんが忠告して走り去った。
眩暈にも似た混乱で、頭をふらつかせながら歩く。
ナギサは車内から沈黙したままだ。ただ、その表情には強い怒りが張り付いている。
ふと視線を移すと、公園の入口に少年が佇んでいた。
誰かを待ちわびている風情の少年は、近づいてみるとケンイチ君であった。
「ケンイチ君……こんなところでどうしたんだい?」
「……猫屋田さん、ぼく家出してきました」
ケンイチ君が吐きだすように言った。
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