第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

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 わずかに視線を落としながら、それでも何かを振り切るような表情をしている。  そのいたいけな姿を見ていると、胸が軋むように痛んだ。 「ぼく、猫屋田さんの家に泊めてもらっていいですか?」  ケンイチ君が切羽詰まった声で訊く。  おそらく他にアテがないのだろう。  少年独特の純粋さに鼻白みながらも、ひざを折ってケンイチ君の眼を見た。 「家は大丈夫なの?」  ケンイチ君がその言葉を聞いて眼を潤ませる。  家出を口にした少年が一番言われたくない言葉だからだ。  それでも、少年は言葉を絞り出して言う。 「マナミは……お母さんが面倒見ると思います」 「う~ん……」  さて、どうしたものか。どうにも言葉が見つからない。  ユキナちゃんや犬頭先生のことで頭がこんがらがっているのもあるが、こんなときに気の利いた言葉のひとつも思い浮かばない自分が恥ずかしかった。  それでも今は無垢な少年の想いに触れて、そこはかとなく救われた気がする。  ポリポリと頭を掻いていると、 「とりあえずイサナの家に行くぞ」  いつものごとくナギサが独断する。  その気持ち良いくらいに簡潔な言葉に胸がすく。 「うん、行こうか」  僕は身を小さくしている少年に言った。  ナギサとケンイチ君を連れて家に着くと、母が顔を輝かせて出迎えた。 「あらあら、娘と孫がいっぺんにできたみたいよ」  嬉々としながら声を浮かせるが、僕たちの顔色を見て訳アリだと察したように言葉を続ける。 「そんなところに立っていないで、みんな上がってちょうだい」
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