第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

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「えっ、ナギサもかい?」 「当たり前でしょう。みんなで晩ご飯食べましょう」  満面の笑みで母が答える。  母が晩ご飯の用意をする間、ナギサが手持ち無沙汰に立っていた。  その足元でわだかまるワルキューレが、ペロペロと舌をだしてヨーグルトを舐めている。 「ナギサちゃん、そこのお皿を取って」 「母、これか?」 「あら、母じゃなくて夏音(なつね)と呼んで」 「では夏音、ここに並べれば良いのだな」 「うふふ、娘ってカンジで素敵だわ」  女2人で和気藹々としている。  それに比べて僕とケンイチ君は、言葉少なに並んで座っていた。  ケンイチ君はかしこまって正座である。 「足、崩して」 「いいえ。人の家なので」 「今時珍しく礼儀正しいんだね」 「あんまり人の家に上がったことないんです」  昼夜を問わず美紀さんが働いている状況で、ケンイチ君は家でマナミちゃんの面倒を見ていたのだ。  おそらく友達と遊ぶ暇もなかったのだろう。  それで他人の家の匂いに馴染まないのかもしれない。 「うちで遠慮は無用だよ」 「あ、ありがとうございます」  ペコリと頭を下げて、やっと足を崩してくれた。  そうして2人してアグラをかきながら、女2人が台所で騒いでいるのを聴いている。  すでに美紀さんには電話を入れていた。  受話器の向こうで「よろしくお願いします」と言った言葉が、やけに耳に残っている。 「ほらイサナちゃん、麦茶を人数分だして」  母にせっつかれて「仕方ないな」と立ち上がると、 「あっ、ぼくも手伝います」  とケンイチ君も一緒になって立った。
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