第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

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「うふふっ、家族ってカンジで団欒よね」  母が含み笑いするので、ナギサが表情を崩さずに訊く。 「これが家族のカンジなのか?」 「自然と笑顔になれるのが家族よね」 「そうか、笑顔か」  ナギサがつぶやいて、無理に表情を笑みのかたちにする。 「ナギサちゃん、違うわよ。無理をするのは自然じゃないわ。笑いってね、自然と心の底から湧いてくるものなのよ」 「心の底か。難しいな」 「ナギサちゃんは後で練習ね。はい、ご飯食べましょう!」  母が手を打ちながら言った。  食卓に着くと、香ばしい匂いにあおられた。  今晩はカレーライスである。 「では、いただきます」 「みんな、たっくさん食べてね。イサナちゃんが小食だから、いつも余って困るのよ」 「母さん、それ関係ないから」  笑い合う声で食卓が満ちる。  ナギサも不器用な表情をしながら食べている。  そんななか、ケンイチ君だけがカレーの器を眺めたまま固まっていた。 「ケンイチちゃん、どうしたの?」  母がにこやかに訊いた。  薄々は察しているのだろうが、それでもあえて自分から訊かない。  相手から話すのを待っているのだ。 「普通の家庭って……温かいですね」 「あら、うちは普通じゃないわよ。イサナちゃんを里親制度で養子縁組してから、母さんずいぶんと苦労したんだから」 「えっ、僕はそんなに苦労掛けたかな?」  僕は笑いながら反論すると、母が眼を細めて答える。 「養子縁組した頃のイサナちゃんはどこか遠くを見ていて、なかなか心を開いてくれなかったわ。 憶えてるかしら、5年生の頃に家出して遠くに行ったこと?」
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