40人が本棚に入れています
本棚に追加
「うふふっ、家族ってカンジで団欒よね」
母が含み笑いするので、ナギサが表情を崩さずに訊く。
「これが家族のカンジなのか?」
「自然と笑顔になれるのが家族よね」
「そうか、笑顔か」
ナギサがつぶやいて、無理に表情を笑みのかたちにする。
「ナギサちゃん、違うわよ。無理をするのは自然じゃないわ。笑いってね、自然と心の底から湧いてくるものなのよ」
「心の底か。難しいな」
「ナギサちゃんは後で練習ね。はい、ご飯食べましょう!」
母が手を打ちながら言った。
食卓に着くと、香ばしい匂いにあおられた。
今晩はカレーライスである。
「では、いただきます」
「みんな、たっくさん食べてね。イサナちゃんが小食だから、いつも余って困るのよ」
「母さん、それ関係ないから」
笑い合う声で食卓が満ちる。
ナギサも不器用な表情をしながら食べている。
そんななか、ケンイチ君だけがカレーの器を眺めたまま固まっていた。
「ケンイチちゃん、どうしたの?」
母がにこやかに訊いた。
薄々は察しているのだろうが、それでもあえて自分から訊かない。
相手から話すのを待っているのだ。
「普通の家庭って……温かいですね」
「あら、うちは普通じゃないわよ。イサナちゃんを里親制度で養子縁組してから、母さんずいぶんと苦労したんだから」
「えっ、僕はそんなに苦労掛けたかな?」
僕は笑いながら反論すると、母が眼を細めて答える。
「養子縁組した頃のイサナちゃんはどこか遠くを見ていて、なかなか心を開いてくれなかったわ。
憶えてるかしら、5年生の頃に家出して遠くに行ったこと?」
最初のコメントを投稿しよう!