第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

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「あ、あれは家出じゃないよッ」 「本当のお母さんのお墓に行ってたのよね」 「自分を捨てた母の死が受け入れられなくて……それでどうしても見ておきたかったんだ」 「まあ、養護施設かそこしか行くアテがないと思っていたから、すぐに見つけたけどね。 イサナ容疑者のプチ家出は、あえなく未遂に終わりましたとさ」 「自転車を漕いで必死に行ったのにね」 「だからね、どこの家庭でも何かしら悩みを抱えているのよ」 「はいはい。出来の悪い息子で悪うございました」  また笑いがあふれる。 「家族とは、良いものだな」  ナギサがつぶやいた。  ワルキューレも鳴いている。  すると、うつむいたままのケンイチ君から押し殺した声が漏れだした。 「……母さんが日曜日で休みだと、ぼくと妹で晩ご飯をつくっていたんです。母さんを休ませたいから、一生懸命つくるけど上手くできなくて。 でも妹は、マナミは野菜を剥いたりコップをだしたりして……手伝ってくれたんです」 「障害があるのに、マナミちゃんは偉いね」 「それなのに、ぼくはマナミが鼻歌がうるさいと……ぶったりしていたんだ。マナミにつらく当たっていた。 それはぼくが……普通に見られたかったからなんだ。それなのに……それなのに……」 「ケンイチちゃん、カレーが冷めるわよ」  母がおだやかに促す。  ぽろぽろとケンイチ君が流した涙が、カレーの上に落ちていたからだ。  それでもケンイチ君がスプーンを口に運ぶ。 「猫屋田さんのカレー……お母さんがつくったカレーの味がします。……美味しいです」  ケンイチ君がそう言って、またぽろぽろと涙をあふれさせた。 「いっぱいオカワリしてね」  母が優しい声で言った。 「はい。いただきます」  ケンイチ君が大きくうなずいた。
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