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「あ、あれは家出じゃないよッ」
「本当のお母さんのお墓に行ってたのよね」
「自分を捨てた母の死が受け入れられなくて……それでどうしても見ておきたかったんだ」
「まあ、養護施設かそこしか行くアテがないと思っていたから、すぐに見つけたけどね。
イサナ容疑者のプチ家出は、あえなく未遂に終わりましたとさ」
「自転車を漕いで必死に行ったのにね」
「だからね、どこの家庭でも何かしら悩みを抱えているのよ」
「はいはい。出来の悪い息子で悪うございました」
また笑いがあふれる。
「家族とは、良いものだな」
ナギサがつぶやいた。
ワルキューレも鳴いている。
すると、うつむいたままのケンイチ君から押し殺した声が漏れだした。
「……母さんが日曜日で休みだと、ぼくと妹で晩ご飯をつくっていたんです。母さんを休ませたいから、一生懸命つくるけど上手くできなくて。
でも妹は、マナミは野菜を剥いたりコップをだしたりして……手伝ってくれたんです」
「障害があるのに、マナミちゃんは偉いね」
「それなのに、ぼくはマナミが鼻歌がうるさいと……ぶったりしていたんだ。マナミにつらく当たっていた。
それはぼくが……普通に見られたかったからなんだ。それなのに……それなのに……」
「ケンイチちゃん、カレーが冷めるわよ」
母がおだやかに促す。
ぽろぽろとケンイチ君が流した涙が、カレーの上に落ちていたからだ。
それでもケンイチ君がスプーンを口に運ぶ。
「猫屋田さんのカレー……お母さんがつくったカレーの味がします。……美味しいです」
ケンイチ君がそう言って、またぽろぽろと涙をあふれさせた。
「いっぱいオカワリしてね」
母が優しい声で言った。
「はい。いただきます」
ケンイチ君が大きくうなずいた。
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