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結局、ケンイチ君は家に戻ると言ってくれた。
今日はうちに一泊して、明日の朝に帰ると約束してくれたのである。
それでケンイチ君と寝室に向かう途中、ベランダで短夜(みじかよ)の空を眺めるナギサを見た。
煌々と輝く月涼し光を浴びて、その凜とした横顔が白く仄かに微光している。
それはまるで孤高の聖女のようで、思わず見惚れてしまう。
「ぼく、あの人好きです」
ケンイチ君が頬を染めながら言った。
「僕も好きだよ。ナギサは強い女の人だからね」
「その強いナギサさんは、イサナさんを頼りにしていると思いますよ」
「そんなことないって」
「きっとそうですよ」
しみじみとケンイチ君が言った。
寝室から戻ると、まだナギサが夜空を眺めていた。
「まだ見てるの?」
「イサナ……私は本当に魂器移植を受けたのだろうか?」
「ナギサはどう思うの?」
「わからない……自信がないのだ」
その瞳は満天の星を数え飽きず、その声は夜の星のごとく揺らいでいた。
「自分が生きる死骸だと感じるのは、榊花の親が私にしたことが原因だと思っていた」
「育ての親がしたこと……?」
「榊花の親は……死番師の純血を保つのだと言って、私を裸にして穢れがないか毎日観察していた。
それが死ぬほど嫌で、いつしか精神を乖離する術を覚えていた」
「それって……性的虐待じゃないかッ!?」
頭の芯がクラリと酩酊する。堪らなく心がざらついた。
ナギサも児童虐待の被害者であったのだ。
その言葉に驚きながら、それでも彼女は揺るぎなく美しかった。
「ところがペイルライダーの言葉を聞いて、私は死した魂を弄ばれたのだと合点した」
「ナギサはナギサだよ、自信を持って」
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