第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

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 結局、ケンイチ君は家に戻ると言ってくれた。  今日はうちに一泊して、明日の朝に帰ると約束してくれたのである。  それでケンイチ君と寝室に向かう途中、ベランダで短夜(みじかよ)の空を眺めるナギサを見た。  煌々と輝く月涼し光を浴びて、その凜とした横顔が白く仄かに微光している。  それはまるで孤高の聖女のようで、思わず見惚れてしまう。 「ぼく、あの人好きです」  ケンイチ君が頬を染めながら言った。 「僕も好きだよ。ナギサは強い女の人だからね」 「その強いナギサさんは、イサナさんを頼りにしていると思いますよ」 「そんなことないって」 「きっとそうですよ」  しみじみとケンイチ君が言った。  寝室から戻ると、まだナギサが夜空を眺めていた。 「まだ見てるの?」 「イサナ……私は本当に魂器移植を受けたのだろうか?」 「ナギサはどう思うの?」 「わからない……自信がないのだ」  その瞳は満天の星を数え飽きず、その声は夜の星のごとく揺らいでいた。 「自分が生きる死骸だと感じるのは、榊花の親が私にしたことが原因だと思っていた」 「育ての親がしたこと……?」 「榊花の親は……死番師の純血を保つのだと言って、私を裸にして穢れがないか毎日観察していた。 それが死ぬほど嫌で、いつしか精神を乖離する術を覚えていた」 「それって……性的虐待じゃないかッ!?」  頭の芯がクラリと酩酊する。堪らなく心がざらついた。  ナギサも児童虐待の被害者であったのだ。  その言葉に驚きながら、それでも彼女は揺るぎなく美しかった。 「ところがペイルライダーの言葉を聞いて、私は死した魂を弄ばれたのだと合点した」 「ナギサはナギサだよ、自信を持って」
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