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「……イサナは優しいな」
夏色の夜空から視線を落として、ナギサがまっすぐに僕を見る。
その瞳が星の燦めきのように揺れていた。
それは紛うことなく生きる者の光で、決して生きる死骸じゃない。
「私にはかすかに養護施設での記憶がある。泣き虫の少年と何かを約束した記憶だけが私が私である証として、決して魂器移植されたのではないとすがっているのだ」
「それが僕とナギサが別れたときだね。その前に2つに破いた絵本をまだ持っているよ。
君の描いた結末、今度教えておくれ」
満天の星空に想いを馳せるように言った。
翌日の朝──僕は犬頭先生に会うために相談所へ、ナギサはケンイチ君を送り届けるために家へ、お互いに分かれ行動する。
相談所に駆けつけ犬頭先生を眼で探していると、何やら事務所に険悪な空気が流れていることに気づいた。
「……おはようございます。何かありましたか?」
柳眉を寄せて険しい顔をする美蝶子さんに訊ねると、
「相変わらずタイミングが悪いヤツだな。連絡する前に張本人がお出ましとはね」
けんもほろろな言葉が返ってきた。
「僕が何かしましたか……?」
まだ状況が呑みこまずに間の抜けた声を出していると、
「馬鹿、お前さんの一大事なんだぞ!」
棘まくりな声で叱咤される。
まだ何のことかと惚けていると、
「猫屋田イサナ、待っていたぞ」
背後からいきなり冬馬監査官の声がした。
「お、おはようございます、冬馬監査官」
「猫屋田イサナ。貴様は星降市児童相談所を解任され、市役所福祉課に異動することが決定した。
それが不服ならば、免職処分も辞さないと通達があった」
冬馬監査官が乾いた声で告げた。
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