第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース3 ─

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「……イサナは優しいな」  夏色の夜空から視線を落として、ナギサがまっすぐに僕を見る。  その瞳が星の燦めきのように揺れていた。  それは紛うことなく生きる者の光で、決して生きる死骸じゃない。 「私にはかすかに養護施設での記憶がある。泣き虫の少年と何かを約束した記憶だけが私が私である証として、決して魂器移植されたのではないとすがっているのだ」 「それが僕とナギサが別れたときだね。その前に2つに破いた絵本をまだ持っているよ。 君の描いた結末、今度教えておくれ」  満天の星空に想いを馳せるように言った。  翌日の朝──僕は犬頭先生に会うために相談所へ、ナギサはケンイチ君を送り届けるために家へ、お互いに分かれ行動する。  相談所に駆けつけ犬頭先生を眼で探していると、何やら事務所に険悪な空気が流れていることに気づいた。 「……おはようございます。何かありましたか?」  柳眉を寄せて険しい顔をする美蝶子さんに訊ねると、 「相変わらずタイミングが悪いヤツだな。連絡する前に張本人がお出ましとはね」  けんもほろろな言葉が返ってきた。 「僕が何かしましたか……?」  まだ状況が呑みこまずに間の抜けた声を出していると、 「馬鹿、お前さんの一大事なんだぞ!」  棘まくりな声で叱咤される。  まだ何のことかと惚けていると、 「猫屋田イサナ、待っていたぞ」  背後からいきなり冬馬監査官の声がした。 「お、おはようございます、冬馬監査官」 「猫屋田イサナ。貴様は星降市児童相談所を解任され、市役所福祉課に異動することが決定した。 それが不服ならば、免職処分も辞さないと通達があった」  冬馬監査官が乾いた声で告げた。
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