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第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース4 ─
「児童相談所を解任って……いきなりそんなこと言われても」
まったく心の準備が出来ていない。
やにわの理不尽な命令に虚をつかれて、感情を起こすのが追いつかなかった。
それでも予断を許さぬ鋼の声が、身に降りかかった火の粉で自分がいつの間にか燃え上がっていることに気づかされる。
「したがって、即刻業務を停止して異動する準備に掛かれ」
「ちょっと待ってください、そんな急に──」
「これは厚生労働省からの辞令だ。それに不服従ならば、相応の覚悟が問われるぞ」
「そんなの──」
なおも反論を言い掛けたとき、
「イサナッ──!!」
突然の叫びが相談所にこだまする。
振り向いて見ると、事務所の入口にナギサとケンイチ君が立っていた。
ナギサの表情にはありありと焦燥の色が見え、ケンイチ君に至っては今にも泣きだしそうに崩れている。
「ど、どうしたんだい?」
突然の闖入者に驚く一同に背を向けて、走ってきたナギサを問い質した。
「ケンイチの家に行ったが、母親はおろかマナミの姿が見当たらぬのだ」
「な、なんだって……」
ナギサの言葉で胸がざわついていると、
「ぼくのせいだ……ぼくが家出したから、母さんがマナミを、マナミを……」
ケンイチ君が取り乱しながら崩れるように膝をつく。
その震える掌には雛人形の首が載っていた。
「美紀さんがマナミちゃんに何かするのかい?」
「マナミは要らない子だと独り言を言っていたから、きっとどこかに預けちゃうつもりなんだよ」
「預けるって一体なんのことだい?」
なおも問い質すと、ケンイチ君が涙に濡れた顔を上げる。
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