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「相談所の犬頭というおじさんがうちに来ていたんだ。そのおじさんが母さんと相談していたのを見たんだよ」
「犬頭先生が……ッ!?」
頭を殴られたような衝撃で眼の前が真っ白になった。
(あの犬頭先生がなぜ黒葛原の家に……!?)
心が疑問をなぞるが、頭はすでに答えを用意していた。
その恐ろしい帰結ゆえに、臆病な心が受け入れられないのだ。
「ケンイチ、その犬頭の他に誰かいなかったか?」
ナギサが鋭い声で問うと、
「黒い服の外人さんがいたよ。顔は笑っていたけど怖い雰囲気だったから憶えているよ」
ケンイチ君は思い出したように言った。
「犬頭先生と……ペイルライダーが……!?」
「イサナ、すぐに探さないとマナミが危ないっ!」
急かすナギサに応えるように足を踏み出そうとすると、
「猫屋田イサナ、貴様どこに行くつもりだ?」
冬馬監査官の鋭利な声が背中を刺し貫いた。
「ど、どこって……マナミちゃんの身に危機が迫っているんですッ」
「貴様はすでに児童福祉司ではない。従って貴様が行く必然がどこにあるのか?」
微塵も揺るがぬ声だった。
(一刻の猶予もないが、このままでは埒が明かないッ)
僕は無視するように足を踏みだすと、その進路を冬馬監査官が立ち塞いだ。
「そこから一歩でも動けば、貴様を免職処分に断ずる」
「退いてください、僕は行かなければいけないんですッ」
ナギサとケンイチ君を前に、僕と冬馬監査官が睨み合うように対峙した。
「貴様はもう児童福祉司ではないんだぞ。なぜそこまでする必要があるのだ?」
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