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「僕は児童福祉司の前に人間です。子どもを守るのは、法ではなく人の心です」
「どうしても命令に逆らうのなら、貴様がもつ公務員の資格も剥奪するぞ?」
「僕は構いません」
断固として進もうとした。
すると──
「猫屋田、よく言った!」
美蝶子さんの叫ぶ声が背中を打った。
僕の背後にいつの間にか、美蝶子さんや雉子さんが立っていた。
そればかりか、服部女史や辰鳥課長までいるではないか。
皆が一様に熱い眼をして僕を見ていた。
「猫屋田。ここはあたしたちに任せて、お前さんはお嬢ちゃんと行くんだよ」
美蝶子さんが強い声で言うと、冬馬監査官が遺憾に堪えない表情で首を振る。
「何をとち狂ったか……君たちまでこの男に感化されたのか?」
「ああ、存分に感化されたね。でもね、それはコイツが仲間だからさ。子どもの命を大事に思う仲間だからなんだよ」
「子どもや仲間と口にするが、すでに児童福祉司の資格を剥奪されたのだぞ」
冬馬監査官が焦れた声をだすと、
「ならば、あたしの資格を猫屋田に託すよ!」
美蝶子さんが強く叫ぶ。
「ならば、君の資格も剥奪するぞ」
「それならば、わたしの資格をあげます!」
今度は雉子さんが叫んだ。
「それならば、君も資格を剥奪するぞ」
「それで足りなければ、ここにいる全員の資格を託すわよ」
しまいには服部女史が言葉を繋げた。
みんなの言葉を聞いて、不覚にも眼の奥が熱くうずいた。
うるうると感情が湧いて、涙をあふれさせないようにするので精一杯だ。
「あくまでも恭順の意を示さないのだな。では、この部署を廃止に追い込むまでだ」
冬馬監査官がいささか鼻白みながら言うと、
「それは、この老いぼれの首で勘弁してください」
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