第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース4 ─

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 笠所長がおおらかな声で告げた。 「所長までそんな痴れ言を……?」 「こんなときこそ老いぼれが責任をとるものです。そうやって若い者に意志は継がれゆき、新しい世界を築いていくのです」 「みなさん、ありがとうございます!」  精一杯で頭を下げるしか術がなかった。  こぼれた涙が頬を伝い落ちる。それでも拭うことなく頭を下げ続けた。 「猫屋田イサナ」冬馬監査官が言った。「君は子どもを救うと約束できるか?」 「約束します!」僕は全身全霊で叫ぶ。 「自分にはダウン症の子がいる。それを妻に預けっぱなしで仕事に逃げていた。キャリアなぞ気にせずに、自分も君のような勇気があればな……」 「冬馬監査官……」 「何をしているか貴様、前に進む者は後ろを振り返るな!」  冬馬監査官が叱咤する。 「あ、ありがとうございます」 「絶対に救えよ」  きびすを返して晴れやかな表情で告げた。 「猫屋田、走れ!」  美蝶子さんが叫んだ。 「はいッ!!」  誇りを胸に返事する。  入り口で待つナギサの横に行くと、側に立つケンイチ君に声を掛ける。 「一緒に行くか、僕たちと」 「うん!」  少年は他に答える言葉がないようにうなずいた。  相談所の玄関を抜けると、外で猫が喉を鳴らすようなエンジン音がしている。 「どうやら急ぎのようだね。乗ってくかい?」  アオネさんがイセッタ600から顔をだして訊いた。 「アオネさん、身を引いたんじゃなかったんですかッ?」 「決めたのさ、最後までこの眼ですべてを見届けるとね」  イセッタ600のドアが開く。 「四の五の言わずに、とっとと乗りな!」 「ありがとうございます」  最後の闘いが待つ場所に向かうため、僕たちは急ぎ車に乗り込んだ。
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