第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース4 ─

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 ナギサがアオネさんの横の助手席に、僕とケンイチ君は後部座席に座った。  走りだしてすぐ、ケンイチ君に魂器移植の意味やマナミちゃんの危機を説明する。 「それじゃマナミの魂はどうなるのですか?」 「妹さんの身体から抜けて消えてしまうんだ」 「別人になるの?」 「ああ、元のマナミちゃんじゃなくなる」 「そんなっ……!?」  ケンイチ君が凍りつく間も、車はけたたましくエンジン音を響かせながら走る。 「それで13人目の犠牲者をどうやって探すんだい?」  アオネさんがハンドルを切りながら訊いた。 「このワルキューレが道案内をしてくれる」  ナギサが答えると、後ろを向いて目配せをする。  僕はケンイチ君が握る雛人形の首を渡した。  ワルキューレが鼻をヒクヒクさせながら人形の首を嗅ぐ。  すると赤い首輪に吊された鐘が、闇を嗅ぎつけたがごとく鳴り始めた。 「ほほう、猫が道案内とは洒落てるじゃないかっ」 「アンジェラスの弔鐘が報せてくれるのだ」  鐘の音が鳴る方向に向かって、車が地を這うように疾走する。  街を走り抜けた車は、やがて深い森の奥に鎮座する教会に着いた。  淡い黄色の壁と白い漆喰の装飾がある、天を衝くように荘厳で豪奢な教会である。  重厚な彫りのある大きな扉を開けると、正面の至聖所に白亜の段をなす祭壇があり、赤い灯りが仄かに揺らめいていた。  至聖所の上に祀られているのは、濃い色彩で飾られた聖母マリアと幼子イエスの母子像である。   聖堂に燈された蝋燭の光、打たれる鐘の音、グレゴリオ聖歌のような祈りの声、炉儀による振り香炉の煙り。
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