第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース4 ─

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 そのどれもが神々しく霊妙で、舞い散るホコリまでもが光の粒子となって輝いていた。 「父と子と聖霊の御名によって」  ペイルライダーが祭壇の中央で、重々しく十字を描いた。  その相貌は厳粛の色に染まり、なお一層に青白く人間離れして見える。  祭壇の前に並んだピュウと呼ばれる信徒席に、犬頭先生と美紀さんが祈るように手を合わせていた。  そしてペイルライダーの眼前にある祭壇には、眼を閉じたマナミちゃんが横たえられているではないか。 「遅かったな、死送る者よ」  ペイルライダーが言うと、ナギサが対峙するように叫ぶ。 「貴様、マナミを返してもらおう!」 「それは叶わぬこと……虐げられし幼子の魂は天に召された」  「な、なにっ!?」  驚愕するナギサを尻目に、ペイルライダーが眼を伏せるようにマナミちゃんを見る。 「ミルメコレオを知っているか? 前半身がライオン、後半身がアリの姿とされる、古代ギリシアの民話にある伝説上の生物である」 「それが何だと言うのだ?」 「野獣を食べるライオンを父とするため穀物が喰えず、穀物を食べるアリを母としているため肉も喰えず、すぐに飢え死んでしまう。 この憐れな幼子も同じである。外見は普通の人だが、その知能は人に劣る。人の世話にならずば死んでしまう、憐れで脆弱な存在なのだ」 「そんなことは断じてない。子どもは弱い存在ではないぞ」 「『新約聖書外典(アポクリファ)』に云う。グノーシス主義は霊を至高のものとし、物質を下等な悪とみなしている。 創造神デミウルゴスも偽りの神とする。物質世界は強欲であるが故に悪であり、そこから脱却するには死をもって解放するしかないのだ」
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