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「そんなことは許さない!」
ナギサが昂然と叫ぶ。
するとそのとき、ケンイチ君が祭壇に走った。
「マナミ──っ!!」
眼を開けぬ妹を求めて必死で呼ぶが、
「ケンチ、もうすぐだから。もうすぐマナミは普通の子になるからね。それまで我慢してちょうだい」
美紀さんが押し止めるように抱きしめた。
「母さん、何言ってるの! マナミがマナミじゃなくなるんだよっ!」
「マナミが普通の子になるなら、母さん何にもいらない。こうするしかないのっ、もうこうするしかなかったのよっ!」
「マナミ──!! マナミ──!!」
それでもケンイチ君が腕を伸ばすが、少年の小さな手では欲する者に届かなかった。
必死に宙を掻きむしる手を、別の大きな手が押し戻すように包む。
「妹さんは差別のない世界に旅立つんだ。もう世間から後ろ指さされずに、人間らしく暮らせる世界に行くんだよ」
犬頭先生が感にたえない声で言った。
僕はその言葉を聞いて我慢できずに、ケンイチ君を掴む手を振り払おうと詰め寄る。
「犬頭先生、止めてください」
「望まれず生まれた子どもは、死して解放されるのだ」
「あなたは間違っているッ」
「君にはわからぬのだ、対処療法では限界がある。いくら我々が粉骨砕身しても、児童虐待の悪循環は絶てぬのだ」
「それでは児童福祉司は何のためにいるのですか?」
「子どもが夢見るであろう世界の涯てが、差別と偏見に満ちた醜い社会にしかないのが現実なのだ。
そんな世界で泣く子どもを、君はまだ救うと言い張るのかね?」
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