第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース4 ─

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「そこで泣く子がいれば、泣かないでと手を差し伸べます。そこで震える子どもがいれば、怖くないよと抱きしめます」 「それでコルチャックは愚かに死んだではないか。死ねば何も残らぬのだ。死ねば無価値なのだぞ!」 「それをマナミちゃんに強要しようとしているんですよ。あなたは自分のエゴを通したかっただけではないのですか?」 「私は……私は……」  犬頭先生がガクリと身を崩し、土下座するように床に手をついた。  顔をうな垂らせたまま、なおも何かにすがるようにつぶやいている。 「もう遅いのだよ。“血脈のアグリーメント(契約)”で、母親から子の魂を移植する誓約が済んでいるのだからね。それを破ることは死を意味するのだ」  ペイルライダーがせせら笑うように言うと、 「子どもの将来を閉じるな! 子どもの未来を奪うな!」  ナギサはすべてを絶つ言葉で叫んだ。  ペイルライダーは寸毫も意に解さず、おもむろに祭壇の周りを廻り始める。 「愚かな死送る者よ、汝は魂器移植が何なのか知らぬのだ。これは神の御業、大いなる奇跡の顕現なのだよ」 「では、魂器移植とは何なのだ?」 「イスカリオテのユダが使いし御業なり」 「ユダ……? イエス・キリストを裏切った男か?」 「ユダは裏切り者ではない。いや、ユダがイエスを神の子に仕立て上げたのだ」  ペイルライダーが秘めやかな声で告げた。 「な、何を言っているのだ……?」  不審がるナギサを解きほぐすように、ペイルライダーが慎ましやかな声で話を続ける。 「汝は“ユダの死海写本(しかいしゃほん)”を知っているか?」
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