第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース4 ─

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「“飢餓”を司るブラックライダー」  黒馬にまたがる黒色甲冑の騎士は、その手に天秤を提げていた。 「そして“死と退廃”を司る、我がペイルライダーを併せて黙示録の四騎士なり」  青白い相貌をした黒衣の異端者が高らかに名乗る。 「そしてこれがユダの死海写本に記された、ナルドの香油を調合した“ラダマンテュスの振り香炉”である」  仄かに烟る振り香炉を持ち、おもむろに三騎士の背後に立つ。 (暴力と不信と飢餓、それに死と退廃って……)  まるで児童虐待のようだと思った。  けだし世界の秩序に混沌をもたらす、封印から解き放たれた終末の御使いである。 「この幼子の魂は我が所有物なり」 「マナミの魂は必ず取り戻してみせる」  ペイルライダーとナギサが、三騎士をはさんで対峙した。  ナギサが両の掌に燭香を灯し、僕に向かって振り返らずに叫ぶ。 「イサナ、私はこれより肉体を抜け霊体となって闘う。その間にマナミの魂を呼び寄せてくれ」 「そんなことをして大丈夫なのかい?」 「私は助死師──死番の助死師だから、必ず帰ってくる」 「信じてるよッ!」  強く呼び掛けると、ナギサが一瞬だけ横顔を見せる。  これから死地に向かうといのに、その表情は穏やかで美しかった。  僕はその貌を一生忘れないだろう。 「行くぞ!」  ナギサが叫んだ。  その叫びに呼応して、ワルキューレが九尾を立て吼えた。  両掌にあるエリュシオンの燭香を打ち合わせると、2つの焔が弾けて大きな火焔になる。  火焔が明るく教会を照らすと、ナギサの身体から白い霊体が抜けでた。  ナギサの白い霊体と霊猫ワルキューレ、それを威嚇するように三騎士の馬が高く嘶く。
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