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その声に呼応するように霧烟る異空間に光が差し、一面の花咲く野原が映った。
それは冥府エリュシオンに咲くアスポデロスの花であろうか。
眩しい情景と共に、甘く蕩けるような芳香が、幻嗅となって鼻をくすぐる。
「マナミ──ッ!!」
ケンイチ君の叫び声で、ハッと現実に戻った。
祭壇に横たわるマナミちゃんが「う……ん……」と、初めて呼吸をした赤児のように声をもらす。
「この世界に戻ってきたんだね」
喜び勇んで声をあげた。
「お……かあ……さん……おかあさん……お母さん!」
マナミちゃんが言葉を紡いで母親を呼んだ。
「マナミ、ごめんね!」
美紀さんが我が子を抱きしめて泣いた。
それはマナミちゃんが初めて「お母さん」と言った瞬間である。
だが、まだ喜ぶのは早い。ナギサが冥府から戻っていないからだ。
教会の床にひざまづくナギサの肉体は、凍ったように仮死状態のままである。
その両掌の燭香も風前の灯火だ。
「ナギサ──ッ!!」
叫びはすれど異空間である冥府は、黒闇に閉ざされて彼女の姿を見失っていた。
「イサナ……どこだ……ここは暗くて寒い……」
ナギサのか細い声だけがする。
その声も消え入りそうに脆く聞こえた。
「ナギサ、戻ってこい! 約束しただろ、死番の助死師は必ず帰ってくると!」
「イサナ──!!」
冥府の闇が渦巻き消え入る寸前、彼女の呼ぶ声が教会に響いた。
ふっ──と冥府の異空間が閉じる。
ナギサの幽体はどこにも見えず、その肉体もひざまづいたままであった。
「ナギサ……戻ってこれなかったのか……?」
虚ろにつぶやきながら、祈るようにひざまづくナギサの前に崩れた。
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