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すると──
「温かい光だ。イサナの言葉を頼りに戻れたぞ」
ナギサが貌を上げて言った。
「……なぜだ?」
倒れていたペイルライダーが上半身を起こして問うた。
「15年前に魂器移植したときと一緒だ。汝の魂はこの世界から離れようとしなかった。
なぜ、この救いのない残酷で醜悪な世界に留まるのか?」
「あのときの記憶が甦った。イサナと約束したのだ。あの養護施設を出た日に、またいつか逢おうねと。その言葉が私を死の誘惑から救った」
ナギサが身体を起こして答える。
「おお神よ、我の久しい罪を憐れめ。瀕死の太陽、世界の涯てに沈むを。凶(まが)の日に棚引きて、丈け長き死布さながらの。
我が罪咎に祝福あれ。御手に託した魂は徒(あだ)に非ず。そして御心の周到さ計り知られぬ」
詠うように忌言を唱えると、ペイルライダーがよろよろと身体を起こした。
そのまま傷ついた身体を引きずり、教会の出口に歩み去ろうとする。
「我は必要悪である──人の己心がある限り、我は何度でも蘇るであろう」
その言葉を残して、黒衣の異端者が重い扉から去り消えた。
ふと僕は、マナミちゃんが握りしめているものに眼がいく。
そっと握る手から外すと、広げて見て驚いた。
それは公園でナギサがあげた絵であった。
「犬頭先生……僕とナギサに渡した本の作者、家主転茶九は先生のペンネームですね」
うな垂れて座る犬頭先生に告げる。
アオネさんに調べてもらったのだ。絵本『こころをさがして』の作者が犬頭先生であることを。
「先生の書いた絵本では、妹は死に兄は絶望して終わる結末ですよね。しかしナギサの絵では、違う結末が描かれています」
そう言って犬頭先生に、ナギサの描いた絵を手渡した。
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