第3章 世界の涯てに泣く者と ─ ケース4 ─

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 すると── 「温かい光だ。イサナの言葉を頼りに戻れたぞ」  ナギサが貌を上げて言った。 「……なぜだ?」  倒れていたペイルライダーが上半身を起こして問うた。 「15年前に魂器移植したときと一緒だ。汝の魂はこの世界から離れようとしなかった。 なぜ、この救いのない残酷で醜悪な世界に留まるのか?」 「あのときの記憶が甦った。イサナと約束したのだ。あの養護施設を出た日に、またいつか逢おうねと。その言葉が私を死の誘惑から救った」  ナギサが身体を起こして答える。 「おお神よ、我の久しい罪を憐れめ。瀕死の太陽、世界の涯てに沈むを。凶(まが)の日に棚引きて、丈け長き死布さながらの。 我が罪咎に祝福あれ。御手に託した魂は徒(あだ)に非ず。そして御心の周到さ計り知られぬ」  詠うように忌言を唱えると、ペイルライダーがよろよろと身体を起こした。  そのまま傷ついた身体を引きずり、教会の出口に歩み去ろうとする。 「我は必要悪である──人の己心がある限り、我は何度でも蘇るであろう」  その言葉を残して、黒衣の異端者が重い扉から去り消えた。  ふと僕は、マナミちゃんが握りしめているものに眼がいく。  そっと握る手から外すと、広げて見て驚いた。  それは公園でナギサがあげた絵であった。 「犬頭先生……僕とナギサに渡した本の作者、家主転茶九は先生のペンネームですね」  うな垂れて座る犬頭先生に告げる。  アオネさんに調べてもらったのだ。絵本『こころをさがして』の作者が犬頭先生であることを。 「先生の書いた絵本では、妹は死に兄は絶望して終わる結末ですよね。しかしナギサの絵では、違う結末が描かれています」  そう言って犬頭先生に、ナギサの描いた絵を手渡した。
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