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そこには色取りどりのシャボンに包まれて、倖せそうに手を握る兄妹の姿があった。
「長老の木が“心はかたちのないものだから、言葉で言いあらわすしかない。
子どもは心の欠片である言葉で大きくなって、やがて大人になるんだよ”と言うと、兄妹が言葉の欠片に包まれて目を覚まし、本当にさがしていたのは幸福だったと気づく──それが私の想い描いた結末だ」
ナギサがきよらかな声で告げる。
「もしかすると私は、子どものかけがえのない夢を閉じこめていたのですかね?」
犬頭先生が訊ねると、
「子どもは“夢の境界”が世界の涯てだと思います。それは無限の可能性だと信じています」
僕は敬意を込めて答えた。
犬頭先生が何度も頭を上下させながら、重い身体を起こすように椅子から立ち上がる。
「イサナ君……その優しさを磨きなさい」
あのときに言った言葉を繰り返した。
そしてペイルライダーが去った扉から、光差す世界に歩み去った。
──僕はまた公園に来ていた。
触れそうに青い空。
歌うがごとく白い雲。
沁みるような緑の樹々。
優しく頬を撫でる透明な風。
美しいものをいっぱいに呼吸しよう。
芝生に座る僕の横には、ナギサとワルキューレがいる。
「犬頭先生が自殺したよ。先生の遺書によると、もう末期癌で余命宣告されていたらしい」
ハナズオウの木で、犬頭先生が首を吊った。
イスカリオテのユダがこの木で首を吊ったという伝説からユダの木とも呼ばれる。
家族を持たなかった先生は、遺された遺産をすべて児童養護施設に寄付すると遺書に記されていた。
古い花が散り新しい花の芽がついた木の下に、先生の遺書が置いてあったという。
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