第1章 死送る者のレゾンデートル ─ ケース2 ─

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 金切り声が物理的に横っ面を打ったので、机の上に積んであったケースファイルを崩してしまった。  終始狼狽しながら応対する僕を、美蝶子さんと雉子さんという魔女の姉妹が眺めている。 さっきまでの菩薩や天使のように慈悲に満ちあふれた笑顔ではなく、魔女がカエルやコウモリを煮ながら大釜の前で浮かべる邪悪な笑みだ。 「ふう────」肺の酸素を全部絞り出すように、大きく深くため息を吐いた。 「猫~屋~田~」 「イ~サ~ナ~君~」  やっと受話器を置いた僕に、電光石火で魔女姉妹が攻め入ってきた。  息つく暇も与えぬタイミングで追い討ちをかけるように、2人とも満面の笑みである。  傷ついた心を容赦なく突き刺す言葉かと思って身構えると、 「誰にでも突っかかる相手だから、そんなに気にしないで」 「先輩の言う通りです。そんなことで落ち込んでいたら身が持ちませんよ」  穏やかで慈愛に満ちた言葉をかけられた。 「み、美蝶子さん、雉子さん、慰めてくれるの?」  思わず眼の奥が熱くなり涙腺が崩壊しかけた途端、 「馬~鹿ァ~、そんなに甘くねえよ。ちょっと優しくすると信用するのは、世間知らずの証拠だね~」 「イサナ君はお人好し過ぎです。からかい甲斐があるですよ」  美蝶子さんが紙くずを投げて寄こし、雉子さんが後ろから髪をクシャクシャと掻き乱す。  まるでジャイアンとスネ夫に苛められるのび太君の心境である。  でも現実には、未来からネコ型ロボットは助けに来てくれない。
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