第1章 死送る者のレゾンデートル ─ ケース2 ─

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 どうにも困っていると、視界の端に本が映った。ナギサが読んでいた本である。  どうやら児童文学の本らしく、タイトルが『子どものための豊かな国』とあった。 「本が好きなの?」 「3つだ」 「3つ?」  いきなり話が飛んだので、思わず言葉を重ねて訊いてしまった。 「子どもの本に欠かせない要素に、3つの大事なものがある」 「3つの大事なものか……それは何かな?」 「1つめは古くて歳をとったもの。2つめは小さいもの。3つめは大切なもの」 「歳とったものは大人で、小さいものは子どもかな」 「現実世界に2つはあるが、3つめの大切なものが見つからない」 「大切なものか……それは心かな」 「心……それは見つけられるものか?」 「心は形のないものだからね、見つけるのは難しいかな」 「……私は心を持たない生きる死骸だ」  ナギサが静かにそう告げると、やおら立ち上がり出口に向かい歩きだす。 「あっ、もう時間だ。戻らないとッ」  僕は慌ててパンを口に放り込んだ。 「くぅおらぁ猫屋田~!!」  事務所に戻ると美蝶子さんがいたくお冠だった。まるで夜叉の形相である。 「何を怒っているんですか?」 「どの口がほざく? こんな美人を差し置いてゴスロリ美少女を追い駆けるなんて、貴様がそんな趣味だとは思わなかったぞ」  美蝶子さんが見下げ果てたヤツだと嘆くと、 「イサナ君、見損なったです。この雉子というウザカワ女子よりも、他の女と浮気するなんてヒドいです」  雉子さんがセンベイを頬ばりながら泣き真似をする。
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