第1章 死送る者のレゾンデートル ─ ケース3 ─

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「孝行息子だねえ。ゴスロリ女子を酒の肴にしようと思ったのにな」 「肴に逃げられたら致し方ナシですね。美蝶子先輩、不肖この雉子がお相手しますわ」  不埒な笑みをもらす美蝶子さんに、妹分である雉子さんが慰めた。 (油断も隙もないな、この魔女姉妹は)  魔女姉妹の奸計から逃れると、僕はまた県立公園に足を運んだ。  ナギサのことを考えていたわけじゃなくて、別に気になっていることがあるからだ。  それは夕刻になると1人の女の子が、この公園で母親を待っているからである。 「あっ、今日も待っているな」  木の形を模した森の木展望台の下で、小さな女の子が佇んでいる。  仕事帰りの母親を待っているのだ。  それでも1人でいるのは何かと危ないので、いつも遠くから眺めるのが日課になっていた。  ところが、今日は様子が違うようである。  女の子のそばに、寄り添う人影があった。 「ナギサ……!?」驚いて声をもらす。  女の子の横に座っていたのはナギサだった。  そばに赤いリードで繋がれたワルキューレもいた。退屈そうにアクビをしている。 「イサナか、また会ったな。何の用だ?」  ナギサが静かな声で訊いた。 「えっ! 用!? 何の用って……」  いきなり訊かれてキョドると、2人が不思議そうな表情をした。  まさか女の子が心配でいつも眺めていました、とは言えない。 「し、仕事帰りに散歩してたんだ、公園を歩くのが趣味だから」 「そうか。散歩が趣味なのか」  ナギサがさして面白くもなさそうにつぶやいた。 「そう言うナギサは何をしているの?」 「ユキナと一緒に絵本を見ていた」 「ユキナ……君がユキナちゃんだね」  女の子の名前だと察して言うと、 「白姫(しろひめ)ユキナです!」  女の子がはにかみながら、でも大きな声で告げた。
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