第1章 死送る者のレゾンデートル ─ ケース4 ─

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 不審に思い様子を見る。ワルキューレがユキナちゃんに近づくと、その鐘の音が強くなった。 「これは一体どういうことなの?」  僕はますます頭が混乱する。  ただでさえ霊を死送る者とか、死を御告げる鐘とか、非日常の言葉を羅列されているのに、ここにきて一段と不可思議な現象を目の当たりにしている。  昨日まではこんな異常な事態、まったく予想だにしなかったことである。 「おそらくはユキナに近しい者に、アンジェラスの弔鐘が反応しているのだ」  ナギサが硬い声で言うと、ますますユキナちゃんの表情がこわばった。  言っている意味は理解できなくても、よくないことだと認識しているのだろう。 「ユキナちゃんの近しい者って、まさかお母さんか……?」 「それはもうすぐ判明する」  軽快に歩むワルキューレを先導に、僕とナギサそれにユキナちゃんが進む。  蕭々と鳴り響く鐘の音。  その音色に導かれて進む僕らは、まるで死者を悼む葬列のようである。  やがて、ひときわ強く鐘が鳴る場所に止まった。  鐘の音に導かれて辿り着いた場所は、こぢんまりとして小綺麗なアパートだった。 「……ここ、ユキナのおうちだよ」  ユキナちゃんが怖ず怖ずと告げた。  沸き上がる不安が胸を焦がす。  それでもまだ、ナギサの存在を疑問視していた。  いや、こんな非日常の世界に足を踏み入れたことを認めていなかったのだ。  それでも眼前には「白姫今日子」の表札が掛かる扉がある。 「イサナ」ナギサが眼で合図する。  僕は心を決めてインターホンを押した。 「すみません。猫屋田と申す者ですが、ユキナちゃんをお連れしました」  心臓がバクバクと脈打つのを感じる。  きっと公園で見たお母さんが顔を覗かせる、笑顔で出迎えてくれる、そう信じた。
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