第1章 死送る者のレゾンデートル ─ ケース4 ─

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「虐げられ死した幼き霊魂……虐待者から解放……?」  僕は茫然とナギサを見やる。  助死師とは、人が死ぬときにその傍らで死の恐怖を和らげるメンタルケアではないのか。  それなのに幼き霊魂を虐待者から解放するとは、一体どういう意味なのだろうか。  そして死送る者とは──。 「助死師だか何だか知らないけど、マサルが虐待で死んだなんて言い掛かりは止して! わたしが虐待したという証拠でもあるのっ!?」  今日子さんが錯乱したように絶叫した。 「お、落ちついてください今日子さん」 「あんた誰よっ!」 「僕は児童相談所の猫屋田イサナ。彼女は榊花ナギサです」  児童相談所という言葉を聞いて、今日子さんがギョッと眼を剥いた。  いくぶん正気に戻るが、それでもナギサを睨む眼は怒気に満ちている。 「わ、わたしが急用で家に戻ったら、マサル君がぐったりしていたのよ。 それですっかり取り乱して茫然としていたら、いつの間にかあなたたちが目の前にいたの」 「わかりました。とにかくマサル君をこのままにしておけません」マサル君の遺体にシーツを掛ける。「まずは警察を呼びましょう」 「す、すみません、パニックになってしまって」  今日子さんが言われるがままに110番しようとすると、 「イサナ、待て」  ナギサが鋭い声で制止した。 「待てって、どういうことだいナギサ? マサル君はもう亡くなっているから、警察に通報しないといけないよ」 「まだマサル君の霊魂が留まっているからだ」 「マサル君の霊魂が……?」  そう言われて気づいたが、たしかにまだアンジェラスの弔鐘は鳴り響いていた。 「幼き魂は生まれたときにへその緒が切れても、赤ん坊から成人するまで母親の魂と繋がっている。 だから死しても、子の霊は母の許を離れない。それが虐待されて理不尽な死を迎えれば尚更だ」
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