第1章 死送る者のレゾンデートル ─ ケース4 ─

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 玄関には美蝶子さんが腕組みをして立ち、待っていたかのように口を開いた。 「自分で憧れて入った仕事だ、簡単に辞めるなんて言うなよ。猫屋田の助けが必要な子どもが、きっとどこかで待っているはずだからな。 その子どもを倖せにするまでは、自分の責任を放棄するじゃないよ」  帰り道に公園に寄った。  自転車を置いて、人の少なくなった公園内を歩く。  緑が生き生きと深い。  白い蝶が緑を泳いでいる。  黄色と橙色のマリーゴールドが咲き誇る。  美しいものを深呼吸しよう。  そして足はまた、小さな公園池に向いていた。  池の畔にある木製のベンチに腰を下ろす。  大きなケヤキが風にそよぐ音。  池に流れこむ清水のせせらぎ。  遠くで母娘が笑い合う声がする。  どうしても眼は、子どもを探してしまう。  ユキナちゃんとナギサが本を読んでいた場所には、今はもう誰もいない。  そろそろ空が暮れなずんできた。 「何を見ているのだ?」  ナギサがいつの間にか背後に立っていた。  答えないでいると、ナギサが隣にそっと座った。 「死送りの術式のとき、なぜイサナは私を止めたのだ?」  黙ったままでいると、ナギサが勝手に話し始める。 「死番とは、死者が次々と逝くのを見送る、いくら供養されても浮かばれない死者のことだ。 私は虐げられ死した幼子の魂を死送る、この残酷な世界に繋がれた生きる死骸だ」  少しうつむき長い睫毛を伏せる。
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