第1章 死送る者のレゾンデートル ─ ケース4 ─

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「それでも救いを求める子どもがいる限り、私はこの世界に留まるしかない。それが私の存在理由──レゾンデートルだからだ」  そう強く言って、再び頭を上げた。 「イサナの存在理由は何だ? 私と同じように子どもを救うことではないのか?」  ナギサが問うた。  そのナギサの顔が白くかすんで見えない。  心の涙腺がこわれたように、止めどなく溢れる涙のせいだ。  頬を伝って涙がそよぐように流れる。  母が前に言っていた。 “涙はね、人のつくれる一番小さな海なのよ”  僕は止めどなく海を流していたんだ。 「僕には……子どもの心の悲鳴が聴こえなかった。 あのときユキナちゃんの虐待のサインに気づいていれば、もしかしたらマサル君を助けられたかもしれないのに……」 「イサナは神じゃない。何でもできると思うのは驕りだ」 「それでも……救いたかったんだ」  西の空に星が瞬いている。あれは金星か。  たしか女神の星だ。そして堕天使の星でもある。  暗い天にひときわ輝く明星。 「マサル君は転生すると言ってたよね。次はどんな親のところに転生したいと思うかな」 「また同じ母親の許に生まれたいはずだ。子どもとはそういうものだから」 「そうだったら、良いなあ」  僕はそう願った。 「イサナは光だな。私とは違う」 「ナギサ……」 「闇を知るには闇に堕ちるしかないが、闇から救うには光が必要だ」  ナギサがスクッと立ち上がる。
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