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第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース1 ─
悲しみに惑わない強い心がほしい。
僕は強く思う。
涙も嘆きも糧にして強く生きると、児童福祉司になるときに誓ったんだ。
それなのにマサル君は救えず、ユキナちゃんの心にも深い傷を負わせてしまった。
それもこれも、力なく不甲斐ないせいだ。
「イサナ君、あまり思いつめてはいけませんよ」
長田所長が言った。
長田さんは、星降市の児童養護施設「星降市子どもホーム」の所長である。
児童養護施設とは、保護者のない児童、虐待されている児童、その他環境上養護を必要とする児童を入所させて、これを養護し、あわせてその自立を支援することを目的とする施設と規定されている。
様々な理由で親と離れた子どもが将来、周囲の人を信じ、自分に自信を持って社会の一員として生きていけるようにするのが、施設の養護目標である。
「この施設の6割の子どもが、保護者から虐待を受けて入所しているのです」
長田所長が柔和な眼を細めて告げた。
その慈愛に満ちた口髭のある相貌は、この施設で何十年も子どもたちを育んできた年輪のように、深い皺がいくつも刻まれている。
「すみません。児童福祉司なのに子どもを救えなかった自分が情けないです」
また後悔が昂じて頭を下げるしかなかった。
「児童福祉司が何でもできると思うのは驕りですよ」
長田所長がナギサと同じことを言っていさめる。
「すみません……」
「何でも“すみません”と言うのは、良い親に見られたいと身につける癖──子どもを虐待する親御さんに多い口癖です。
イサナ君は良い児童福祉司になりたいという思いが強いばかりに、結果的に良く見られたいと考えていませんか?」
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